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福岡高等裁判所 昭和50年(ネ)325号 判決 1978年7月20日

控訴人 大塚貢

被控訴人 国 ほか一一名

訴訟代理人 布村重成 亀山良満 ほか六名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の当審における被控訴人国に対する予備的請求を棄却する。

三  当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  控訴人の被控訴人らに対する本訴各請求(被控訴人国については主位的請求)について。

当裁判所は、当審における新たな証拠調の結果を参酌してもなお、控訴人の被控訴人らに対し所有権確認、抹消登記手続並びに土地引渡を求める本訴各請求はいずれも失当として棄却を免れないものと判断する。

その理由は、次のとおり附加するほか、原判決理由の説示するとおりであるから、ここにこれを引用する。

(一)  <省略>

(二)  <証拠省略>中、右引用にかかる原審の認定、判断に反する部分は、原審の認定の資料となつた原判決挙示の各証拠並びに右(一)項掲記の各証拠と対比し、にわかに採用できない。

いずれも本件(五)の土地を訴外大塚正義が昭和五一年一一月二七日撮影した写真であることに争いのない<証拠省略>も、撮影年月日からして、本件(五)の土地に対する被控訴人江頭仁三の時効取得(昭和三五年三月三日時効完成)についての原審の認定、判断を覆すに足りない。

二  控訴人の被控訴入国に対する予備的請求(損害賠償請求)について。

被控訴人国は、控訴人の当審における予備的請求の追加に対し異議を述べ、訴の追加的変更不許の裁判を求めているので、まずこの点につき判断する。

控訴人の本件(十八)、(十九)の各土地についての被控訴人国、被控訴人鶴松次に対する各請求は、右各土地に対する本件買収処分の違法無効及びこれによる本件売渡処分、第二次買収処分並びに第二次売渡処分の違法無効を理由とするものであり、被控訴人鶴松次は、抗弁として右各土地の時効取得を主張し、被控訴人国は、抗弁としてこれを援用しているものであるところ、控訴人の被控訴人国に対する予備的請求は、右抗弁が採用されたときは右各土地に対する本件買収処分の違法無効に由来する第二次売渡処分の違法性及び同処分に当つた公務員の過失を理由とし、右各土地の所有権喪失によつて蒙つた損害(被控訴人鶴の取得時効完成時における右各土地の時価相当額を控訴人の共有持分四分の一で除した額)の賠償を求めるというのであるから、その請求の基礎に変更がないものということができる。しかして、右予備的請求の追加により著しく訴訟手続を遅滞させるものとも言い難い。

そうすると、控訴人の訴の追加的変更はこれを許容すべきである。

そこで、控訴人の予備的請求の当否について判断する。

被控訴人国が、本件売渡処分によつて被控訴人山口繁松に売渡した本件(十八)、(十九)の各土地を昭和三六年一一月一日、農地法一五条に基づき同人から買収し(第二次買収処分)、同日これを同法三六条に基づき被控訴人鶴松次に売渡し(第二次売渡処分)、昭和三七年一月三〇日これを引渡して同人にその占有を得させ、同人が満一〇年の時効期間満了まで占有を継続して右各土地の所有権を時効により取得した結果控訴人が右各土地の所有権を喪失したことは、さきに認定したとおりである。(右各土地は前示のとおり、控訴人、訴外大塚栄作、同宮原安兵衛、同宮原次作の四名の共有であつたから、控訴人外三名は右各土地につき、それぞれのその共有持分を喪失したものである。)

又、右各土地につき昭和二五年八月二四日被控訴人山口繁松のために本件売渡処分による所有権取得登記がなされたことは当事者間に争いがない。

控訴人は、「右各土地の第二次売渡処分をもつて被控訴人国の公権力の行使に当る公務員がその職務を行うについて過失によつて控訴人外三名に損害を加えたものである。」と主張し、右公務員の過失につき、「被控訴人国は第二次買収処分により右各土地の所有名義を取得した時点においてこれを控訴人ら四名に返還(占有の回復と抹消登記に代る所有権移転登記手続の履行)すべきであつたのに、被控訴人国の担当公務員は、その挙に出ることなく、即日被控訴人鶴に売渡し(第二次売渡処分)、昭和三七年一月三〇日、同人に引渡をなしたことに右公務員の過失がある。」旨主張しているので、右売渡処分を担当した公務員の過失の有無について検討する。

本件買収処分は当然無効であり、これを前提とする本件売渡処分もまた無効であることはさきに判断したとおりであるが、右各土地に対する第二次買収処分および第二次売渡処分は、本件買収処分および本件売渡処分がなされた昭和二三年七月二日から実に一三年四ケ月後になされたものであり、また、被控訴人山口繁松のために本件売渡処分を原因とする所有権取得登記がなされた昭和二五年八月二四日からでも一一年二ケ月余の年月を経過した後になされたものである。そして本件売渡処分の被売渡人である被控訴人山口の所有名義の状態が右の如き長期間継続し、その間同人の所有権の存否につき疑念を抱くべき格別の事情の発生もない本件においては、被控訴人国の担当公務員が第二次買収処分および第二次売渡処分をなすに当り、右各土地の所有者をもつて本件売渡処分の被売渡人である被控訴人山口であるとするのはむしろ通常の措置というべく、右公務員に特に右各土地についてなされた本件買収処分の効力について調査検討をなし、同処分に存する前示無効原因を究明して、右各土地がなお、控訴人外三名の所有に属することを確認すべき注意義務があつたものと解することは困難である。

そうすると、被控訴人国が右各土地の第二次売渡処分をなし、これを被控訴人鶴に引渡し同人にその占有を得させたことをもつて、控訴人外三名の損害の発生につき被控訴人国の担当公務員に過失があつたものということはできない。

右のとおりであるから、すすんでその余の点につき検討を加えるまでもなく、控訴人の予備的請求は理由がないといわざるを得ない。

三  よつて、控訴人の被控訴人らに対する本訴各請求(被控訴人国については主位的請求)を排斥した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、また当審で追加した被控訴人国に対する予備的請求も失当としてこれを棄却すべく、当審における訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤秀 篠原曜康 森林稔)

物件目録<省略>

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